札幌高等裁判所 昭和29年(う)41号・昭29年(う)40号・昭29年(う)42号 判決
弁護人の控訴趣意第一点(違憲無効な法律を適用した違法)について。
所論の要旨は、原判決の適用した公職選挙法第一四六条第百四十三条は憲法第十五条第一項第二十一条によつて保障されている国民の基本的人権たる公務員の選定並に表現の自由を奪うものであり殊に本件掲示にかかる文書の如く選挙の公正を害する虞のないものまで刑罰を以て取締り禁止せんとする前示公職選挙法第百四十六条第百四十三条及びその罰則規定たる同法第二百四十三条第五号はいずれも憲法に違反し無効のものであるから原判決は右無効な法律を適用処断した違法があるというにある。
しかし憲法第十五条第一項第二十一条は絶対無制限に公務員選定の権利又は表現の自由を保障しているのではなく公共の福祉に反する場合はおのずから制限さるるものであること同法第十二条の律意に徴するも明らかである。而して選挙運動に使用する文書の掲示を無制限に許すときは選挙費用の増大を来し、その結果公明選挙の精神に背馳するような弊害を誘発し易く斯くては選挙の公正を害し延て公共の福祉に反することとなるからこれを規整し法定外の文書の掲示を禁止することとした前示公職選挙法第百四十八条第百四十三条の規定及びその罰条たる同法第二百四十三条第五号の規定を所論のように憲法に違反し無効のものということはできない。論旨は理由がない。
同第二点(法律の解釈を誤つた違法)について。
所論の要旨は被告人が掲示をした「アカハタ速報」は公職選挙法第百四十八条の条件を具備せる新聞紙たる「アカハタ」の号外であり「アカハタ」から離れた独立別個の文書ではなく臨時発行する「アカハタ」紙に他ならない。従つて「アカハタ」が前記法条に該当する新聞紙であるか否かを判断すべきであるのに拘らず「アカハタ速報」を新聞紙でないと判断したのは法律の解釈を誤つた違法があるというにある。按ずるに所論「アカハタ」紙が公職選挙法第百四十八条にいわゆる新聞紙ではあるが被告人が掲示した「アカハタ速報」は次に説明するとおり、同条に言う新聞紙に該当しない。公職選挙法第百四十八条第一項にいわゆる新聞紙とは世上一般の例にならない多数人に頒布することを目的とし掲示することを主たる目的とするものではなく従つてその記載は印刷に付せられているものを指称するものと解すべく臨時に発行する号外と雖も右の要件を具えなければ公職選挙法第百四十八条第一項の適用はないと言わねばならない。しかるに原判決挙示の証拠により認められるところの被告人が掲示した文書(昭和二十八年領第二号の一二)を見ると「アカハタ速報」なる標題は印刷されているが、記事は筆墨を以て書かれてありそれは一見して掲示用の文書たることが明白であり多数人に配布する目的でつくられたものでないことは明白であるからたとえそれがアカハタ紙の編集者により作成されたものであつても右文書に対しては前記法条の適用はないと言わねばならない。されば原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
同第三点(犯意認定につき法律の解釈を誤りたるか又は審理不尽の違法)について。
所論の要旨は、被告人等は公職選挙法第百四十八条を誤解し本件「アカハタ速報」が同条にいわゆる新聞紙であると信じてこれを掲示したものであり即ち被告人等は同条を誤解した結果「アカハタ速報」が掲示を禁止された文書であることの事実の認識を欠き犯意がなかつたものであるから本件は刑法第三十八条第一項により無罪たるべきものである。しかるに犯意ありとして有罪の認定をした原判決は同条の解釈適用を誤りたるか又は犯意の認定につき審理不尽の違法があるというにある。しかし原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人等は「アカハタ速報」が前記第二点の判断において説示したような形態内容を有する文書たることを認識しながら原判示のようにこれを掲示したことを優に認定し得るから、被告人等は右「アカハタ速報」が前記のような新聞紙でなく公職選挙法上その掲示を禁止されている文書であることを認識しながらこれを掲示したものと言うべく所論のように犯意を欠くものではない。論旨引用の最高裁判所判例はこの事例に当らない。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。